組織変革(3)-パラダイムシフト-2010年4月15日

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松井 恭士
グローバルマネジメント研究所 
ディレクター


仕事を進める上での基本として、先ず、ありたき姿(目標やニーズ)を明確にし、次に現状分析を行い、そして、ありたき姿と現状とのギャップ(すなわち「課題」)を認識して、そのギャップをどのように埋めていくのかの方針・戦略を立てた上で、具体的な施策等の計画を立て、それを実行します。

皆さんは、このありたき姿と現状のギャップを埋める(課題を解決する)ために、どんなアプローチを採られていますか。課題の内容にもよりますが、アプローチを大別すると行動を変えること、または、新しい仕組み(システムや制度)を入れることのどちらかで良い結果を出そうとされていませんか。また、それらは他社事例や過去の経験を踏まえた解決策になっていないでしょうか。

私たちは、今までの経験に基づく価値観や考え方を変えることはそう簡単にできるものではありません。特に、多くの成功体験を積んでしまうと、なかなかそのやり方から脱却するのは難しく、取り巻く環境の変化を常に認識していながらも、「この前もこのやり方で上手くいったから、今回も同じ方法でやれば上手くいくはずだ!」と考えがちです。しかし、日々刻々と変化し続けている今の時代において、このアプローチでは簡単に期待する良い結果を手にすることはできないのです。

また、行動を変えることも容易ではありません。企業変革プロジェクトが上手くいかない原因の1つに「社長は変革、変革と言っているけれど、企業変革したところで、自分に何のメリットがあるのだろうか」と社員の皆さんが考えてしまうことがあると思います。変革というからには、従来とは異なる行動が求められ、負担感があり、ネガティブな印象を受けます。人はネガティブに受け止めていることに本気で取組むことはできないものです。行動変革を期待する場合、変革すればポジティブな結果が待っていることを印象づけることが必要です。

日本にQC活動を普及させたウィリアム・エドワード・デミング博士は、「組織の抱える問題はシステムを変えることで94%は解決する。しかし、より大きな変化をもたらすには、『パラダイム』に働きかけなければならない」と言っています。“パラダイム”(=ものの考え方、認識の枠組み)に働きかけるのが、もう一つのアプローチです。この“パラダイム”の概念を最初に提唱したのは科学哲学者のトーマス・クーンで「全ての有意義な突破は古い考え方の否定に始まる」(著書『科学革命の構造』1962年)と言っています。アリストテレスの時代から1500年以上も信じられていた、地球は宇宙の中心にあり、周りの天体が動いているという天道説に対して、16世紀、天文学者コペルニクスが唱えた地動説のエピソードもその有名な一例です。この地動説は新たな世界を開き、科学技術の進歩をもたらしました。

少し信じられない話かもしれませんが、中世ヨーロッパでは、病気の原因は悪霊だと信じられていました。そこから生み出された治療方法は悪魔払いです。病気になると教会や修道院へ行って悪魔払いをしました。しかし、病気は一向に治りません。さて・・・、中世ヨーロッパの人々はその後どう考えたのでしょうか? 「ひょっとしたら病気の原因は悪霊ではないかもしれない」とパラダイムを疑ったのでしょうか? 答えは”No(ノー)”。祈りが足りないから治らないのだと、行動を変え、昼夜問わず一日中熱心に悪魔払いを続けたのです。また、隣村では大人数で円になって、中央に松明を灯して祈ったらどうやら治ったらしいぞ、という噂を聞けば、その仕組みを取り入れました。しかし、病気は治らない。祈りの甲斐なく亡くなってしまうと「今回捕りついた悪魔は相当のものだった。」と振り返る有様でした。人は自分のパラダイムを疑うことをなかなかしないものです。

18世紀から19世紀にかけての産業革命によって、農村から都市へ人口が流入し、2次産業、3次産業に従事する人が増えました。20世紀初めのフレデリック・テーラーの科学的管理法に代表されるアメリカの生産性革命が、中間層を豊かにし、アメリカを第2次大戦の戦勝国へと導きました。さらに、共産主義、社会主義に対する防波堤となりました。そして、20世紀中盤から始まったのが、マネジメント革命です。ピーター・ドラッカーのいう知識労働者が主体となる、知識社会。資本主義の次に来るポスト資本主義社会です。この変革の波は、戦争の世紀である20世紀に始まりましたが、2010年から2020年に、その影響が社会全体に波及するというのが、ドラッカーの遺言でした。

今のパラダイムでこの変革の波を乗り切ることができるでしょうか?それは、過去の産業革命や生産性革命が証明してくれています。

パラダイムを疑うことは、これまで見えていなかった新たな視点をもたらしてくれます。また、柔軟な発想をすることで、これまで見えていなかったことを、“ああ、そういうことだったのか”と受け入れることができるのです。

今、皆さんが直面している課題は何ですか?
その課題はどのようなパラダイムから起こっていますか?
少しだけ別の視点で眺めてみてはいかがでしょうか。新たな解決の糸口がそこに見えてくるかもしれません。たとえば、物事を正面だけから見るのではなく、前後左右から、上下斜めからなど、多面的に眺めてみてください。

相対性理論で皆さんご存知のアルバート・アインシュタインは言っています。「我々の直面する重要な問題は、それを作った時と同じ考えのレベルで解決することはできない。」と


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