ソニー株式会社 グループ人事部門 国際人事部 海外赴任者人事グループ 兼 ソニーヒューマンキャピタル株式会社 IHRセンター 企画グループ マネージャー
日系大手電機メーカー、外資系コンサルティングファームを経て現職。人事として製造拠点、シェアードサービス部門、本社部門での勤務経験を持ち、コンサルタントとしてはグローバル化、社内コミュニケーション、ナレッジマネジメントなど、多様な領域のプロジェクトに従事してきた。専門領域は海外赴任者処遇、グローバル人材マネジメントなど。
「Vol.2はVol.1の続きとなります。Vol.1からお読みください。」
前回のコラムでは、ソニーのグローバル化に向けた全社的な取り組みを紹介した。今回はいよいよ本コラムの本題である「人材のグローバル活用」について、ソニーの考え方を述べていきたい。
グローバル・ローカライゼーション
ソニーのグローバル・オペレーションの基本指針は「グローバル・ローカライゼーション」である。これはソニーのファウンダーである盛田さんの造語である。ソニーは終戦直後の創業間もない時期から「世界」を目指して戦ってきた企業であるという意味で、かなり早い時期から「グローバル」を意識してきたし、一方で、それぞれの地域に溶け込んでビジネスを展開し、ニーズに合わせて商品を開発してきたという点で、「ローカライゼーション」に力を入れてきた会社でもある。この言葉の本質的な意義は今も変わることはない。
ソニーでは、人事の側面においてもこの考え方が適用されてきた。象徴的なのが、1970年代から取り組んできたマネジメントの現地化の進展である。ボードメンバーの数で言うと、欧米では8割近く、その他の地域でも約半数が日本からの赴任者以外のメンバーによって占められている。これは、日本企業だけではなく、グローバルな多国籍企業の標準から言っても、比較的高い水準ではないかと思う。グローバル・ローカライゼーションという大方針が、徹底した現地化の実現に大きく貢献してきたと言えるだろう。
「グローバル・ローカライゼーション」と赴任者処遇制度
ソニーのグローバル戦略を前線で担ってきた日本からの海外赴任者の処遇制度にも、ローカライゼーションを重視する姿勢が見られる。最もわかりやすいのがボーナスの仕組みである。日本企業では、日本からの海外赴任者のボーナスについては、日本で評価し、日本で支給するのが一般的である。しかしソニーの場合は、現地の業績に応じて、現地で評価し、現地で支給している。地域によるバラつきはあるが、極力現地社員と同じ評価基準、KPIを用い、支給時期や回数も原則として現地に合わせている。従って、支給は年に一度だけだし、年収に占めるボーナスの割合も、日本にいるときとは変わる。日本からの赴任者の上司が現地社員であることも多いが、そういう場合であっても上記の運営が徹底されているし、赴任者と現地社員とを完全に横並びで評価しているところもある。
もちろんこの仕組みにも欠点は色々あるし、不満を言う社員もいる。しかし、マネジメントの現地化を進め、赴任者と現地社員が一体となった経営を実現していくために、会社から社員に対する基本的なメッセージである処遇制度に、ローカライゼーションのポリシーを埋め込み、それを徹底してきた意義は大きかったと考えている。
HR Transformation
しかし、今のままで良いわけではない。前回のコラムで述べたとおり、ソニーの中ではグローバルで大きな変革(Transformation)が進んでいる。今人事に求められているのは、こうした変革を支え、推進することである。
従来のソニーのグローバル人事の運営指針を一言で言えば、「尊重と協調」である。地域による考え方やプラクティスに敬意を払い、赴任者と現地社員の一体感を醸成することでパフォーマンスの最大化を図ってきたわけである。これにより現地化は相当程度深化し、ソニーはその果実を享受してきた。しかし我々は次の段階に向かわなければならない。
今後はグローバルレベルでの「融合と分担」を重視し、グローバルに統合された人事機能を構築する必要がある。元々持っているローカライゼーション志向を活かしながら、グローバルで最適化された、より効率的なオペレーションを目指していく必要があるのである。
赴任者の役割
また、赴任者に求められる役割もこうした動きに伴って変化している。
これまで赴任者には、グローバル・ローカライゼーションの担い手として、各地域のマナーを尊重しつつ、日本からナレッジを移転し、現地に浸透させることが求められてきた。そして、その主たる担い手は日本からの赴任者であった。
これからの赴任者は、それに加え、グローバルでの最適化を体現していかなければならない。ナレッジ共有についても、従来は主に日本から各地域にという一方向的な流れであったが、今後は各地域で蓄積された知識をグローバルで活用できる体制を整えていく必要がある。
赴任者は、こうしたグローバルでの知識ネットワークの結節点となる存在である。そして、その担い手は日本からの赴任者に限られない。現時点では、全赴任者のうち、日本からの赴任者はいまだ90%以上を占めているが、今後徐々に日本以外からの赴任者の割合が上昇していくことになるだろう。こうした変化に伴い、赴任者の処遇制度についても、さらにブラッシュアップしていかなければならない。
求められる考え方
こうした動きは既に少しずつ現実化しており、私は国際人事部のスタッフとして、それを推進していく立場にある。ここでは、日々日本から赴任者を送り出し、同時に日本に海外からの赴任者を受け入れる仕事をする中で、私が現場レベルで感じていることを整理し、今回のコラムの結びに代えさせていただきたい。
海外からの赴任者受け入れの仕事をしていて、日々難しいと感じるのは、やはりコミュニケーションである。言葉の問題もあるが、文化の問題も大きい。具体的に言えば、日本人のコミュニケーションスタイルは、ハイ・コンテクストであり、婉曲である。一方、海外から日本に来る人々のスタイルは多様である。北欧出身者は非常にダイレクトな物言いをする傾向があるし、お隣の韓国出身者は、日本人と非常に似ている部分とまったく異なる部分を併せ持っていると感じる。こうしたダイバーシティを前提とした環境下では、阿吽の呼吸によるマネジメントは不可能である。グローバルでの人材の流動性を高め、それを最大限活用していくためには、シンプルな仕組みと明文化された考え方が不可欠である。
ソニーでは、これまで現地のやり方を出来るだけ尊重しようとしてきた過程で、一部の仕組みが複雑化してしまっていることも事実である。次回のコラムでは、我々がどうやってそのような状況を乗り越えようとしているかを紹介したい。
<次回に続く>
前回のコラムでは、ソニーのグローバル化に向けた全社的な取り組みを紹介した。今回はいよいよ本コラムの本題である「人材のグローバル活用」について、ソニーの考え方を述べていきたい。
グローバル・ローカライゼーション
ソニーのグローバル・オペレーションの基本指針は「グローバル・ローカライゼーション」である。これはソニーのファウンダーである盛田さんの造語である。ソニーは終戦直後の創業間もない時期から「世界」を目指して戦ってきた企業であるという意味で、かなり早い時期から「グローバル」を意識してきたし、一方で、それぞれの地域に溶け込んでビジネスを展開し、ニーズに合わせて商品を開発してきたという点で、「ローカライゼーション」に力を入れてきた会社でもある。この言葉の本質的な意義は今も変わることはない。
ソニーでは、人事の側面においてもこの考え方が適用されてきた。象徴的なのが、1970年代から取り組んできたマネジメントの現地化の進展である。ボードメンバーの数で言うと、欧米では8割近く、その他の地域でも約半数が日本からの赴任者以外のメンバーによって占められている。これは、日本企業だけではなく、グローバルな多国籍企業の標準から言っても、比較的高い水準ではないかと思う。グローバル・ローカライゼーションという大方針が、徹底した現地化の実現に大きく貢献してきたと言えるだろう。
「グローバル・ローカライゼーション」と赴任者処遇制度
ソニーのグローバル戦略を前線で担ってきた日本からの海外赴任者の処遇制度にも、ローカライゼーションを重視する姿勢が見られる。最もわかりやすいのがボーナスの仕組みである。日本企業では、日本からの海外赴任者のボーナスについては、日本で評価し、日本で支給するのが一般的である。しかしソニーの場合は、現地の業績に応じて、現地で評価し、現地で支給している。地域によるバラつきはあるが、極力現地社員と同じ評価基準、KPIを用い、支給時期や回数も原則として現地に合わせている。従って、支給は年に一度だけだし、年収に占めるボーナスの割合も、日本にいるときとは変わる。日本からの赴任者の上司が現地社員であることも多いが、そういう場合であっても上記の運営が徹底されているし、赴任者と現地社員とを完全に横並びで評価しているところもある。
もちろんこの仕組みにも欠点は色々あるし、不満を言う社員もいる。しかし、マネジメントの現地化を進め、赴任者と現地社員が一体となった経営を実現していくために、会社から社員に対する基本的なメッセージである処遇制度に、ローカライゼーションのポリシーを埋め込み、それを徹底してきた意義は大きかったと考えている。
HR Transformation
しかし、今のままで良いわけではない。前回のコラムで述べたとおり、ソニーの中ではグローバルで大きな変革(Transformation)が進んでいる。今人事に求められているのは、こうした変革を支え、推進することである。
従来のソニーのグローバル人事の運営指針を一言で言えば、「尊重と協調」である。地域による考え方やプラクティスに敬意を払い、赴任者と現地社員の一体感を醸成することでパフォーマンスの最大化を図ってきたわけである。これにより現地化は相当程度深化し、ソニーはその果実を享受してきた。しかし我々は次の段階に向かわなければならない。
今後はグローバルレベルでの「融合と分担」を重視し、グローバルに統合された人事機能を構築する必要がある。元々持っているローカライゼーション志向を活かしながら、グローバルで最適化された、より効率的なオペレーションを目指していく必要があるのである。
赴任者の役割
また、赴任者に求められる役割もこうした動きに伴って変化している。
これまで赴任者には、グローバル・ローカライゼーションの担い手として、各地域のマナーを尊重しつつ、日本からナレッジを移転し、現地に浸透させることが求められてきた。そして、その主たる担い手は日本からの赴任者であった。
これからの赴任者は、それに加え、グローバルでの最適化を体現していかなければならない。ナレッジ共有についても、従来は主に日本から各地域にという一方向的な流れであったが、今後は各地域で蓄積された知識をグローバルで活用できる体制を整えていく必要がある。
赴任者は、こうしたグローバルでの知識ネットワークの結節点となる存在である。そして、その担い手は日本からの赴任者に限られない。現時点では、全赴任者のうち、日本からの赴任者はいまだ90%以上を占めているが、今後徐々に日本以外からの赴任者の割合が上昇していくことになるだろう。こうした変化に伴い、赴任者の処遇制度についても、さらにブラッシュアップしていかなければならない。
求められる考え方
こうした動きは既に少しずつ現実化しており、私は国際人事部のスタッフとして、それを推進していく立場にある。ここでは、日々日本から赴任者を送り出し、同時に日本に海外からの赴任者を受け入れる仕事をする中で、私が現場レベルで感じていることを整理し、今回のコラムの結びに代えさせていただきたい。
海外からの赴任者受け入れの仕事をしていて、日々難しいと感じるのは、やはりコミュニケーションである。言葉の問題もあるが、文化の問題も大きい。具体的に言えば、日本人のコミュニケーションスタイルは、ハイ・コンテクストであり、婉曲である。一方、海外から日本に来る人々のスタイルは多様である。北欧出身者は非常にダイレクトな物言いをする傾向があるし、お隣の韓国出身者は、日本人と非常に似ている部分とまったく異なる部分を併せ持っていると感じる。こうしたダイバーシティを前提とした環境下では、阿吽の呼吸によるマネジメントは不可能である。グローバルでの人材の流動性を高め、それを最大限活用していくためには、シンプルな仕組みと明文化された考え方が不可欠である。
ソニーでは、これまで現地のやり方を出来るだけ尊重しようとしてきた過程で、一部の仕組みが複雑化してしまっていることも事実である。次回のコラムでは、我々がどうやってそのような状況を乗り越えようとしているかを紹介したい。
<次回に続く>