弊社社長の福住が、関西経営者協会発行の関西経協に寄稿しました。 タイトル「海外進出企業におけるグローバル人材の育成」

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「海外進出企業におけるグローバル人材の育成」


1.はじめに
2008年7月発売の東洋経済社の「海外進出企業CD-ROM」によれば、4,079社の日本企業が、129カ国に21,317社の現地法人を設立している。日本企業にかつての勢いが見られなくなったとはいえ、海外に進出をしている企業は多い。むしろ少子化により日本市場の相対的規模が縮小に向かうことが予測されている中、生き残りをかけて海外へ進出する必要に迫られている企業も多いのではないかと思う。
本稿では、日本企業がグローバルに競争力を強化し、真のグローバル企業になる上で、最大の障害になっているグローバル人材の育成・確保について考えてみたい。

2.グローバル人材とは
グローバル人材が、グローバルに通用する人材と考えれば、野球のイチローや松井のようなスポーツ選手も、ノーベル賞を取ったような学者も、グローバル人材と言える。彼らは高い専門性で、グローバルに通用する人材である。しかしここでは企業組織人としてのグローバル人材を考えてみよう。
特に定説となっている定義があるわけではないが、私はグローバル人材を「グローバルな視点で考え、決断ができ、かつ多様性に富んだ様々な国の人たちからなるチームを率いて、目的達成に向けてリードできる人材」と定義している。つまり常に、グローバルな視点を持ち、決断力があり、多様性に富んだチームのリーダーとなれる人材である。
優れたグローバル企業には、数多くのすぐれたチームが存在する。グローバル本社の経営会議も一つのチームであるし、グローバル顧客チーム、特定の製品開発チーム、各地の生産拠点をまたいだ生産技術改善委員会、各拠点の人事や経理の責任者会議などもチームといえる。こうした国内・海外の拠点をまたいで、共通の目的を果たすために仕事に従事している責任者がグローバルなチームを作り、お互いの情報を共有しながら、どのようにすればチームのミッションを果たせるか、それぞれの業務プロセスの運営がうまくできるかを検討し、実行・管理していくことが、グローバル最適な経営を行うために不可欠だと思う。グローバル人材は、こうしたチームのリーダーまたはメンバーとして、グローバルにさまざまな「同じと違い」をマネージする専門家だといえる。

3.グローバル人材の役割
グローバル人材が企業組織において活躍するポジションは以下のようなものだと思う。
グローバル最適を追及している、優れたグローバル企業におけるグローバル人材の役割は、上記のようなグローバル・チームのリーダーあるいはメンバーとして、グローバルにチームのビジョンや戦略を設定し、計画を立て、実行し、状況を把握し、課題解決のために検討を行い、適切な経営判断を下し、結果を関係者に報告するといった役割が一般的である。

グローバルキャリア活用のポジション
・グローバル本社経営者
・グローバル本社マネージャー
・グローバル本社スタッフ
・海外拠点経営者
・国外他拠点への出向者
・多国籍のオペレーションがある事業部の経営幹部
・国外拠点事業別・業務プロセス別管理者
・事業部別・業務プロセス別グローバルチームのメンバー
・グローバルプロジェクトメンバー
・グローバルコミュニティーメンバー

また各拠点の経営者、または業務部門責任者としても同様に、担当部門のビジョンや戦略の設定から結果報告までのPDCAサイクルを回す役割を果たすことに加え、企業価値観の明確化と共有、仕事を円滑に進めるために必要な社内外のネットワーキング、規律・規範の徹底と順守、グローバルな視点を持った社員の育成と登用などの役割があると思う。
一般的な日本企業においては、地域別・拠点別組織がメインのライン組織になっているケースがほとんどであり、拠点横断的なグローバル・チームはあっても、年に1、2回の会合を開き、情報共有をする程度である。日々グローバル・チームで拠点をまたいで情報共有をしながら仕事をしている企業は少ないであろう。これは、各拠点の関連会社をまず部分最適にし、その結果を連結して、目標に掲げた連結利益が出ればよしとする、連結グループ経営の考え方で経営を行っている企業が多いためだと思われる。しかしグローバル企業の強みを活かすためには、国内・海外の各拠点で、似たような仕事をしている業務部門があれば、会計上の連結だけでなく、業務上の連結を行い、それぞれの拠点の情報を共有し、グローバルなナレッジを用いて、ローカル競争を勝ち抜く経営の仕組み作りが欠かせない。グローバル最適な組織運営の仕組み作りは、多くの日本企業にとってこれからのチャレンジだと思う。そのためにも、数多くのグローバル人材の育成が求められる。

4.グローバル人材に求められる能力
グローバル人材の役割を果たすためにはどのような能力を備えた人材を育成する必要があるのだろうか。
弊社では、比較的グローバル化が進んだ企業のグローバル人材開発部門ご担当の部長さんを招いて、「グローバル人材開発研究会」という会合を過去5回ほど行った。その議論の中で、出てきたグローバル人材に求める能力要件としては次の5つがある。
1)人間力
人間力としては下記のようなものが重要だと思う。
①グローバル視点の思考力・発想力・創造力
②自分のアイデンティティとなる価値判断基準
③リーダーシップ力
④論理的に考え・話し・聞き・周りを巻き込むコミュニケーション力
⑤決断力・実行力
⑥人材育成力
⑦グローバルに人を公平に扱う力
⑧グローバル・ビジネスへの情熱・熱意
特に①のグローバル視点の思考力・発想力・創造力と、②自分のアイデンティティとなる価値判断基準を持てるかは、一般の日本人ビジネス・パーソンがグローバルに行動するときにハードルが高いテーマである。次節で説明を加えたい。
2)経営力
マーケティング、販売、生産、経理・財務、人事などの経営機能別知識に加え、ビジョン・戦略設定・業務改革・PDCAサイクルの回し方などの各種経営方法論、人を育て動かすための人材マネジメント力、優れたチームを作るためのチーム・マネジメント力などが求められる。これらの知識は経営者・管理者としてグローバル人材でなくても求められると思う。
3)専門性
企業組織人としても、グローバルに優れた人材として認められるためには、それぞれの専門分野において一目置かれるような専門性を身に付けることが大切だと思う。営業、開発技術、生産技術、経理、人事などの業務プロセス別専門家や、経営や管理の専門家であってもいいと思う。分野は何でもいいが、世界に通用する専門性が求められる。
4)異文化対応力
世界の様々な人々と一緒に仕事をしたことがある人には当たり前であるが、日本人の常識では考えられないような人間が世界のいたるところにいる。自分の常識にとらわれることなく、世界各地の商習慣や文化の違いを認識したうえで、多様性に富んだメンバーとチームを組むのは楽しいものである。「同じと違い」をマネージするのはビジネスに限らず、文化や人の個性についても同じことがいえる。
5)語学力
「たかが英語、されど英語」と言われた海外駐在経験の長いある日本の大企業の現法社長がいたが、その通りだと思う。日本人が海外でも、国内でも、グローバル・チームの一員として貢献をしていくためには、もはや英語力は避けられない。できることなら、海外赴任をされたら、現地の言葉もある程度は話せるようになったほうがいいだろう。
ただビジネス・パーソンとして、ネイティブのような英語を話す必要はなく、ジャパニーズ・イングリッシュで十分だと思う。むしろ自信を持って、イギリス人やアメリカ人やインド人に対しても、彼らがグローバル人材である証として、彼らの母国語としての英語ではなく、世界の様々な国の人に分かるような英語、インターナショナルな英語をしゃべるよう要請すべきだと思う。

5.グローバル視点と価値判断基準
グローバル視点といっても、顧客・社員・株主・地域社会などのグローバルに点在する様々なステークホルダーの視点、グローバルにどのマーケットに投資するのが一番グローバル最適な財務結果をもたらすかといった視点、グローバルに数あるどの技術を使えば、グローバル競争に有利になるかといった視点、グローバル組織をどのように作れば、効率的な組織運営ができるかといった視点、グローバルに業務プロセスをどのように作り運営すれば、最適な仕事の仕組みが作れるかといった視点、グローバルに社員をどのように育成・活用すれば、ハイ・パフォーマンスな社員を全世界的に確保できるかといった視点など、沢山の視点が求められる。
一つの失敗例が、日本の携帯電話機メーカーに見られる。高い技術を持ちながら、グローバル視点が十分でなかったために、日本の中でのシェア争いに勝つことに経営リソースを使ってしまい、結果的にグローバル市場から撤退せざるを得ない状況になっている。現在インドのように一番伸びている市場で、日本のメーカーが一社も戦えていないのは実に残念な話である。
こうした失敗は、一般の日本人はまず日本のこと、自分が経験してきたことをベースに、海外のことを類推することからおきる過ちだと思う。例えば、SONYの盛田昭夫さんのように、初めからグローバル企業としてのSONYのイメージを描き、何をすべきかを考えることがグローバル人材には求められる。これだけ通信手段、移動手段が発展した現在ではなおのこと、グローバル・エコノミーにおける自社のポジショニングを意識した行動が中小企業を含む、どのような企業にも求められる。
そのためにはグローバルに情報を収集・分析し、何をすべきか自分なりの価値判断基準を持って、的確な決断を下し、実行できなければならない。
今まで日本でやってきたことがいいのではなく、グローバル・ベースに自分なりの価値判断基準に照らして様々な経営テーマについて意見を持ち判断できる人が、グローバルな視点を持った人と言える。
グローバル会議などで様々な国の人と話をしていると、相手は自分の価値観(価値判断基準)が何であるかを知ろうとしていることがよくある。お互い外国人であるから、できるだけ早くお互いを知り合い、よい関係を築きたいとの思いが働くからだと思う。
よく日本人だから日本人としてのアイデンティティを持っていないと国際人として認知されないという人がいるが、もちろん日本人としてのアイデンティティは重要だが、個人的には、それが日本人的でなくても一人の人間として、自分の存在価値を主張できるものであれば何であってもいいと思う。ようは自己が確立した一人の大人であるとの認識を周りがしてくれることが大切なのだと思う。日本人同士でも同じことがいえるが、グローバル・チームにおいてはなおさら周りにいる人がほとんど自己を確立している人が多いため、価値観を明確に持って意見をいう、または行動をすることが求められる。
時々見られるのが、付和雷同的に、誰かの言う主張に引っ張られ自分の考え方を持っていないように見える人がいることである。人間は不思議なもので、自分の意見にいつも賛成してもらえる人より、多少の引っかかりをしても、チャレンジをしてくる人のほうが、胡散臭くは感じてもその人の存在を意識し、尊敬することができということがよくあるものである。だから自分の価値観を常に明確にし、一人の人間として、自分がどのような人間であるかをわかりやすく周りに示し、存在感を持って受け入れられるようになることが、グローバルな場においては特に大切なのではないかと思う。
そのためにはすべてのことに対して、自分の意見をはっきりと示すことである。一人の人間として信頼を勝ち取るためには常に一貫した主張と、時と場合に応じた柔軟性を併せ持っていることが必要なのだと思う。一貫性と柔軟性は一見矛盾しているようであるが、自分なりの価値観を持って一貫性を貫くべき局面と、柔軟な対応をとるべき局面とをうまく判断し、周りに自分を納得させることがグローバル人材として大切なのではないか。

6.グローバル人材の育成
こうした能力を持ったグローバル人材をどのようにして育成すればよいのだろうか。
私見ではあるが、日本の大学を出た時には、ほとんどの学生がグローバル対応力を持っていない現実と、グローバル人材の能力は必要ができた時に海外赴任前研修などで簡単に身に付くものでもないことを考えると、できれば20代後半ごろから、日本国内で活躍するドメスティック・キャリアの人材とキャリアパスを分けて、グローバルに活躍する人材として、しかるべき研修と配属と評価をすべきではないかと思う。
グローバル・キャリアを目指す人材は、人間力、特に思考力・発想力・創造力、決断力・実行力、情熱・熱意については入社後の研修や仕事の経験ではなかなか身につけられないことから、採用時にこうした人材を選ぶべきである。
公平性についても、持って生まれた人への関心のレベルによって決定付けされているように思われるが、ある程度国際会議などに慣れてくると、自然とグローバルに人を公平に扱うことの重要性が理解できるようになると思う。赴任地のスタッフを蔑視するような海外赴任者はビジネス・パースンとして失格である。
経営力と専門性、異文化対応力と語学力は入社後研修と海外現法での実地訓練を積むことによって磨きをかけることが可能だと思う。
実際にグローバル人材を育成するには、2、3年の入社拠点での仕事の後、研修目的による他拠点への転勤、本社での経験、マネジメントとして再び入社拠点へ復帰、マネジメントとしての本社勤務、マネジメントとして入社拠点以外の拠点へ転勤をしながら、常にストレッチした目標達成を要求するポジションに配置するのが重要である。
こうしたグローバル人材のキャリアは、何も本社採用の日本人だけでなく、どこの国の拠点に入社した社員でも、グローバルCEOに通じるキャリアとして、全世界の同期の社員が同じような研修や配属の方針で経験を積めるよう配慮すべきである。
そして、研修プログラムとしては、グローバル共通の研修プログラムを作り、各拠点や地域別に受講させたり、マネジメント・レベルの研修では、様々な国のメンバーをミックスして行うなどの工夫が求められる。大企業であれば、GEのようにグローバルな研修センターを持ち、全世界の社員の精神的故郷とするのも良いであろう。また、グローバル人材となるためのコーチングを日ごろから上司または身近なマネジメントから受けられるような工夫も大切だと思う。

7.グローバル企業として成功するために
グローバル人材が育てば、グローバル企業として成功できるわけではない。先出の「グローバル人材開発研究会」の議論で出てきた、強いグローバル企業によく見られる共通点をまとめてみると、下記の通りである。
・企業組織の原理原則(経営理念・ビジネスモデル・経営コンセプト・ポリシーなど)をシンプルに明確にし、グローバルに徹底する。
・国・地域の特性・違いを見極め、原理原則の適用の仕方を変える(原理原則は変えない)。
・企業が提供する製品・サービスの内容が国や地域の文化的違いに根差している場合(食品・日用品業界など)では、プロセスのグローバル共通項は作りにくいが、ビジネスモデルや経営コンセプトは合わせられるはずである。原理原則へのこだわりと、その適用の柔軟性のメリハリが大切である。
・「おもしろさ追求」の許容度や「業績評価における時間軸設定の仕方」が会社を変える。昔は日本企業の強みとして、これらにゆとりがあった。最近は短期間に儲けにつながることを求められる。結局、自社の「夢」を描き、自社に合った夢実現のモデルを作り、グローバルに適用することが大切である。アメリカやヨーロッパ企業を真似ても駄目になる。
・生産現場では同質性を求める声が強いが、企業経営全体としてはグローバルに、意図的に多様性を取り入れ、さまざまな意見を闘わせたほうが強い組織ができる。
・研修やOJTにより、社員の能力向上や望ましい行動を教えることができても、結局は会社で働く社員の信念や価値観が企業の価値観に合わなければ、社員一人一人の想いを合わせた優れたチームはできない。強い企業には、人材育成に宗教性が見られる。それぞれの企業の教義(経営哲学)を全世界の社員と共有することが大切である。

こうした企業経営の原理原則へのこだわりと、その適用の柔軟性に関する課題と共に、優れたグローバル企業には、情報共有を全世界の社員と確実にかつ迅速に行うための工夫が見られる。本稿の趣旨から少し外れるが、グローバルな情報共有について考えてみたい。
暗黙知ではグローバルに理解されない。形式知化する努力が必要である。多様性に富んだグローバル・チームにおいては、同じコミュニケーション力といっても、日本人どうしのように、阿吽の呼吸で理解し合えることはほとんどなく、すべて言葉で説明して、マニュアル化して初めて理解し合えることが多い。日本人と同じように相手がわかっているはずと思いこむのは危険である。
グローバルに優れた企業になるためには、どこの国の人にも理解しやすいように、仕事の仕方を簡素化し、標準化し、さらにマニュアル化して形式知にすることが大切である。グローバル人材だけにすべて頼るのではなく、自社の強みを、どのように工夫して伝えれば、どこの国の人にでも理解してもらえるか、個人知ではなく、組織知として仕事の仕組みを定義し、グローバルに理解できる組織能力に変換するプロセスが必要だと思う。
形式知化だけでは、情報共有は十分ではない。共通の目標を達成するため、グローバルに関係者が知恵を出し合い、議論を交わし、方針を決め、実行するテーマ別専門家のグループを組織化したコミュニティ作りが必要である。こうした知識創造と共有を行うコミュニティが数多くできれば、グローバルな組織運営を円滑に行うことができる。

8.グローバル企業に求められる人事
すぐれたグローバル企業を作るために、人事部は何をすべきだろうか。一般的にグローバルに関連した人事部の役割は以下のようなものであろう。

グローバル人事部の機能と役割
・企業価値観のグローバル共
・グローバル最適経営を行う組織風土作り
一望ましい組織風土の定義とグローバル共有化
一自律・自律した個人の育成環境整備(出る杭を伸ばす風土作り)
一管理・育成型組織から育成・協業型組織への意識改革
・グローバル人事制度の確立と運用
・事業・業務プロセス別の人事制度のバリエーション把握と制度運用のアドバイス
・グローバル人材育成プログラムの開発と運用
・グローバル・マネジメント・ポジションの識別と候補者の把握管理
・グローバル企業グループ内人材マーケットの開発と運用
・企業価値観・組織風土不適格者の監督と対応
・M&A後の人事制度統一
・人事・組織テーマに関する経営者への助言・提言

グローバル人事部を作るか否かは別として、こうした業務を人事部として計画的に実行していくことが、優れたグローバル企業を作るために求められている。特に人材育成は時間がかかるため、自社の5年後、10年後を見据えたグローバル組織の在り方、それを運営するグローバル人材の育成方法を明確にしなければならない。
さらに詳しくは、拙書「2010年グローバル勝ち組企業の条件」(2006年、英治出版)を参考にしていただきたい。

代表取締役社長  福住 俊男


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株式会社グローバルマネジメント研究所

住所:東京都千代田区三番町3-6

ローダム三番町102

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