ソニーのグローバル人材活用 – Vol.3 2010年5月11日

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萩森 耕平
ソニー株式会社 グループ人事部門 国際人事部 海外赴任者人事グループ 兼 ソニーヒューマンキャピタル株式会社 IHRセンター 企画グループ マネージャー

日系大手電機メーカー、外資系コンサルティングファームを経て現職。人事として製造拠点、シェアードサービス部門、本社部門での勤務経験を持ち、コンサルタントとしてはグローバル化、社内コミュニケーション、ナレッジマネジメントなど、多様な領域のプロジェクトに従事してきた。専門領域は海外赴任者処遇、グローバル人材マネジメントなど。


「Vol.3はVol.2の続きとなります。Vol.2からお読みください。」

最終回となる今回は、ソニーの具体的な取り組みの内容について述べていきたい。取り組みの柱は「グローバル人材活用の機運作り」「インフラ整備」「育成の仕組みづくり」の3つである。

機運を生むプロジェクト活動
ソニーにおいてもグローバル人材活用は積年の課題であり、これまでにもさまざまな試みがなされてきたが、実際にはなかなか上手く進んでいない。グローバルで人材を活用するということに総論として反対する人はいないが、現実の議論に入ると、言葉、文化、仕事の進め方など、様々な問題が発生し、そこに人材を出す側と受け入れる側の利害関係や様々な思惑が絡んでくる。国内部門同士であっても、人の問題は簡単ではないが、これがグローバルな規模で起こるので、当然一筋縄ではいかない。

こうした状況を打開するために、ソニーが行っているのが「国際人事プロジェクト」という活動である。活動内容を一言で言うと、「人事のグローバル統合の推進」で、具体的には人事内でのグローバルなShared valueを定めたり、グローバルでの人材育成プラットフォームを作ったりしている。

その中に、Leveraging talentというプロジェクトがあり、本社の人材開発部と国際人事部が主導して、グローバルでの人材の適材適所を実現するために活動している。日本の事業本部サイドおよび世界の各地域拠点から、人材活用に責任を持つ担当者をアサインし、グローバルでの人材活用のための仕組み作りに向けた議論や、赴任候補者人材情報の共有などを行っており、実際にこの仕組みを経由して実現する異動も年間数十件に上っている。また、ある地域では販売会社社長であった現地社員を他地域拠点の幹部に登用し、広範な組織変革に成功した例なども出てきている。

後に述べるインフラ整備は並行して進められているものの、ソニーにおいては、異動という現実が、人事制度の整備を追い越して進んでいるとも言える。結果として、その一つ一つの成功例を積み重ねていくことで、グローバルでの適材適所実現に向けた機運も醸成させることが可能となる。人事としては、どうしても制度作り・その完成度にこだわりがちで、その実行が遅れることがあるが、スピードが求められる今日、まず制度を動かし、そのフィードバックを柔軟に反映させることが、物事をスピーディーに進める一つのやり方ではないかと考えている。

グローバル人材活用のインフラ整備
次に我々が進めようとしているのが、インフラとしての様々な制度作りである。グローバル共通のCore policyは従来から存在しており、ここ数年でようやく統一的な運用が行えるところまで漕ぎ着けた。これにより、現行規定の問題点も明らかになってきた。

現行の規定の構成は、グローバル共通項目を定めたCore policy、本国で定めるべき事項を記載したHome local policy、赴任先で定めるべき事項を記載したHost local policyの3部構成になっており、Local policyは地域(日本、北米、中南米、欧州、アジア)ごとに作成しているが、特に日本からの赴任者に適用されるJapan home policyの内容が複雑で、他地域のものにないものが多く含まれているため、これをよりシンプルで誰が見てもわかるように書き換えつつ、各地域の規定と調和させていくことが必要になってくる。

赴任者育成の仕組み作り
最後の柱が日本からの赴任者に対する育成の仕組み作りである。

日本以外からの赴任者は増える傾向にあるが、今日時点の状況としては日本からの赴任者は全体の90%以上を占めている。その意味でも、少なくとも当面は日本からの赴任者の重要性は高く、この層の質を高める取り組みが欠かせない。

ただ、近年海外赴任が特別のことではなくなってきていることもあってか、かつてに比べて赴任することに対する覚悟や使命感が弱まっているように思えてならない。赴任者には、一般に、日本にいるときよりも多額のコストがかかっており、昨今のような厳しい経営状況下においては、赴任者にはどうあってもパフォーマンスを最大化してもらわなければならない。赴任前に適切なメッセージを伝えることで赴任に対する「覚悟」や「自覚」を促し、人選プロセスや赴任中のレビュープロセスなどをさらにブラッシュアップすることで、赴任者パフォーマンスの最大化に貢献していくことが我々の使命である。

結びに代えて
ここに来てソニーの業績もやや上向きつつあるが、改革の手綱を緩めることはない。我々は強力なライバルに打ち勝つ必要があり、ソニーにはそれを実現できるだけのポテンシャルがあると私は信じている。しかし、そのためには上に書いた程度ではまだまだ足りないのは明らかだ。

ここまで3回に渡りソニーのグローバル人材活用について紹介してきた。紙幅の関係ですべては紹介できなかったが、実際には上手くいっているものと苦戦しているものが混在している。しかし、ことグローバルでの人材活用に関しては、私個人は楽観的である。なぜなら「多様性を活かす」ことはソニーの得意技のひとつだからである。国内でも、昔から中途採用者が活躍しやすい風土がある(中途入社後2年しか経過していない私が、ソニーを代表して社外のホームページにコラムを書いていることもひとつの証左である)し、先に紹介したマネジメントの現地化については多くの多国籍企業に引けをとらない自負がある。この分野については、日本企業のフロントランナーとして、今後も走り続けていきたい。

- 終わり -


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株式会社グローバルマネジメント研究所

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ローダム三番町102

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