智摩莱商務諮詢(上海) 有限公司 (GML上海)
総経理
日本で127店鋪、会員28万人の料理教室を展開するABCクッキングスタジオ。そのABCの中国事業の立ち上げから現在の店鋪運営まで一貫して担当している栗田 昇氏に中国の料理教室ビジネスについて聞いた。
朝から夜までコースはフル稼働
20代後半から40代がメイン
――中国でもABCの料理教室はいつも盛況のようですね。中国でも日本人の生徒がメインですか?
日本人を含む外国人は5%程度で、ほとんどが中国人のお客様です。現在上海4店鋪、北京1店鋪展開していますが、上海の森ビル(環球金融中心)店、最近オープンした淮海路K11店ともに朝から夜までコースはフル稼働となっています。月に2回程度通っている生徒さんが多いです。
――日本では独身女性の生徒が多いようですが、中国でも客層は同じですか。
中国は日本と異なり、20代後半から40代の既婚女性が多いのが特徴です。中国では若い女性は内面より外見(ファッション、美容など)にお金を使いますが、20代後半から40代になると内面にお金を使う余裕がでてくるからだと思います。
なぜお金払ってケーキ作り?
ゼロからスタートした中国事業
――20~30代の中国人女性は、あまり家で手料理を作らないようですね。
女性はもともと手作り料理に興味があります。しかし現在の中国人女性は仕事が忙しいので、家族のために料理を作る余裕がないのです。特に結婚して家族ができると、「栄養があり、安全なものを旦那さんや子どもに食べさせたい。平日は外食が多いのは仕方がないとして、土日くらいは手作り料理をして家族に喜んでもらいたい」と多くの中国人女性は思っています。
ただ、母親が同居していないと料理は教えてもらえませんし、同居していたとしても西洋料理は教えてもらえないのが現実です。また、パンやケーキにしても、自分で作るという概念がもともとないので、「パンなんて買えばいいじゃん」、「なぜお金を払って自分でケーキを作らなきゃいけないの?」という状況で、ABCの中国事業はスタートしました。
――そのような状況でどうやって、料理教室を普及させることができたのですか?
ABCで手作り料理を体験してもらうことで、「手作り料理って意外と簡単」、「私もできる」と思ってもらえたことが大きいと思います。
ABCでは初心者の生徒さんにイチから料理を教えます。また、ABCのレシピはだいたい2時間以内でできるので、これまで難しいと思っていた料理が、家で簡単にできるようになるのです。フレンドリーな先生から楽しく料理を教えてもらうだけで、ケーキやパン、西洋料理がお手軽に安く作れるようになれるのですから。
またABCでは技術だけではなくモノも持ち帰れることが、中国人女性に受けているのだと思います。教室でケーキを作った後、作ったケーキを家に持ち帰って家族で一緒に食べることができるからです。同じ2時間消費するにしても、映画を見るよりお得感があると思ってくれているのだと思います。
我々が中国で料理教室を始めるようになってから、「週末等の空いている時間にみんなと一緒に楽しく料理を勉強して、作った料理を家に持って帰って家族と食べられるなら、ぜひやってみたい」という女性が増えてきたと感じています。ABCの企業理念である「世界中に笑顔のあふれる食卓を」を中国でも普及させ、中国人女性の考え方や生活スタイルをよくすることに貢献したいと考えています。
材料や道具に妥協なし
コスト削減が課題
――中国では、「料理」、「ケーキ」、「パン」のうち、何を習いに来る人が多いですか?
日本と中国では人気コースが異なります。日本の人気順は「料理、パン、ケーキ」ですが、中国では「ケーキ、パン、料理」の順となっており、中国ではケーキ、パンを習いにくる人が8割を占めます。料理に関しては最近、中国人向けにメニューを調整してから人気が上がってきました。
――日本と同じメニューでやると、材料等の手配が大変ではないですか?
最初は、日本と同じメニューを提供するために必要な材料や道具がなかなか手に入らず苦労しました。煮込みハンバーグを作りたいけどソースがないので、ケチャップとウスターソースを混ぜて、煮込みハンバーグのソースの味を再現したこともあります。
基本的には、中国でも日本と同じレベルのものを作ってもらうことにこだわっているので、材料や道具には妥協していません。例えばテーブルの消毒液は日本製ですし、計量スプーンも日本製です。中国製の計量スプーンも色々試しましたが、分量がブレるのでダメでした。このこだわりのために、材料費が人件費に近いぐらいかかっていますので(笑)。今、工夫して削減しているところです。
――集客はどうされているのですか?
我々は、口コミ以外の広告宣伝はやっていないので、宣伝の役割を果たすのは「店鋪自体」になります。従って店の前を通り過ぎる通行客に料理教室であることが見えるように店の2面がガラス張りで外側から店舗の中が見えること、そして客流の多い広い入り口近くや地下鉄と連絡口の近くであること等が、出店の最低条件になります。
ABCには定期的に料理を習いにくる固定客がいますので、ショッピングモールからは集客を期待できるテナントとして、よい条件で入店させていただいています。
――料理教室の様子を見て、興味を持った人に対してどうアプローチするのですか?
まずは定期的に開催されている200元(キャンペーン期間中は60元)の体験コースでパンやケーキの手作りに挑戦してもらいます。中国で事業をはじめた当初は無料で体験コースを開催していたのですが、無料だと逆に「なぜタダなの?」、「参加すると何か買わされるのでは?」と不審に思われるケースが多かったので、現在は材料費程度を負担してもらう形で体験してもらっています。体験コース参加のきっかけで多いのは、既存顧客の紹介です。既存顧客に一緒にケーキを作ろうと誘われてくる人も多いです。
一度体験コースに参加してもらい、ケーキやパンを作ってもらうと、「手作り料理の楽しさ」を分かってもらえるので、参加者の8割程度は、その場で通常の料理コースに申し込んでくれます。
カップルクラスや親子クラスも
男性や子どもも参加できる
――中国では、どのような料金設定にしていますか?
中国では初心者の方の比率が高いので、手軽に参加できる、「ケーキ3回675元」、「パン3回570元」などのコースが人気があります。
中国での価格もお客様の反応等を見て調整した結果、今の価格になっています。最初は色々セットにして500元にしてみたり、次はケーキ3回300元でやってみたり色々試してお客様の反応等を見ながら現在の3回675元という価格に落ち着きました。入会金も、日本では1万2600円ですが、中国では相場を考えて200元(1元=16円換算で3200円)にしています。
――上海では特に、男性が料理を作る印象があります。男性の生徒さんもいますか?
ABCはもともと女性をターゲットにしているので、当初は男性の生徒さんは受け入れていませんでした。男性が参加すると意識してしまう女性が出てきて料理に集中できなくなるからです。ただ最近は、バレンタインデーに彼氏と一緒に料理を習うカップルクラス、旦那様や子どもと一緒に料理を学べる親子クラスなど、男性や子どもも参加できるイベントも実施しています。
――どういう人に料理の先生をやってもらっていますか?
経験者ではなく、初心者(若くて明るい人)を中国で採用して育てるという方針を取っています。今、先生の指導を担当する技術指導員の多くはABC中国の1期生で構成されています。ABCの先生の仕事は大変です。授業中笑顔を絶やさずフレンドリーに生徒さんに料理を教えるだけでなく、技術を継続的に向上する必要もありますし、授業が終了すると先生が生徒さんに「次の授業はどうしましょうか」と一緒に予約を取る作業もあります。都合が悪くて行けなくなったら生徒さんに連絡をして次の予約を取るといった細かいケアを先生がしているので、生徒さんは継続してくれるのです。
また生徒さんは先生を指名して授業の予約を取るので、人気のある先生とそうでない先生がはっきり分かってしまいます。ABCの先生は、努力してギブアップしない人が向いていますね。笑顔がかわいい、がんばり屋の先生が多いです。
――最近は企業からの問い合わせも多いとお聞きしました。
欧米企業、中国企業、日系企業から福利厚生の一環として利用したいという話をいただく機会が増えています。個人主義の中国では、社員間のコミュニケーションを増やしチームワークを高めるために、飲み会や社員旅行など社員間の交流を促すイベントを企業がよく行います。その新しい試みとして、社内メンバーで一緒に料理を作りながら、コミュニケーションの促進を図ろうと考えているようです。
2013年8月6日
Diamond online掲載
<お知らせ>
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当コラムを執筆している江口征男(GML上海総経理)、中国小売第一人者の富井伸行(GML上海顧問)が、中国ドラックストアチェーン最大手(1500店鋪展開)ワトソンズの「ビジネスモデル(商品が売れても売れなくても儲かる収益モデル、中央集権モデル等)」「マネジメントモデル(店長KPI、店鋪スタッフインセンティブ、DMを中心としたブレないオペレーションモデル等)」について徹底解説します。各社の内部担当者へのヒアリングにもとづいた、中国現地でも中々聞くことのできない情報・ノウハウ満載のセミナーです。セミナー詳細・申込はこちらからご覧下さい。
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