はじめに夢ありき~第6回「世界企業ではなく、『世界に在る企業』を目指せ」~人事に求められる5つの戦略~

query_builder 2006/07/05
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mitsutomi

バブル崩壊によって一旦はストップしたかに見えたグローバル化が、いま再び企業にとっての重要なキーワードとなっている。しかし1990年代はじめまでのグローバル化と、現在のグローバル化では目指すべきところが少し異なっている。


1.2000年の日本企業が迎えた
グローバル化の段階とは

1970年代から80年代にかけて、日本企業にとって「国際化」が大きなキーワードであった。国際化の段階が進むにつれ、80年代に入ると海外現地法人の 設立ラッシュが続き、そこでの活動をより活発に展開する「現地化」の段階に入った。この時「ローカライゼーション」が一つのキーワードとして浮上した。
90年代に入るとアメリカ発の「グローバル化」という言葉が盛んに使われるようになった。では2000年代の現在、一体どんな言葉がキーワードだといえるだろうか。
このことを考えるには、現在の日本の国際化の段階を振り返る必要がある。改めて言うまでもないが、80年代に大きく進展した日本の国際化は、90年代のバ ブル崩壊によってストップした。全体的にみれば、約10年の間、きちんと収益が出せる基盤の立て直し、「選択と集中」への体質転換が中心課題であったとい えよう。つまり、「再構築」こそが、この10年間のキーワードだったのだ。
またもう一ついえば、90年代はじめのグローバル化とは、アメリカ型 のグローバリゼーションだったといえる。当時、アメリカこそ「グローバルスタンダード」であり、それはアメリカンスタンダードで世界を席巻する、いわば株 主第一主義的な支配的なグローバリゼーションであった。
それから10年。バブル崩壊のショックから立ち直り、現在では多くの日本企業が改めて 「グローバル化」に注目している。この10年の経験を踏まえたうえでの国際化の展開とは、一体どんなものだろうか。マグルーは1992年に発行された著書 のなかで、グローバリゼーションを次のように定義している。
「今日においては、商品、資本、人材、知識、イメージ、犯罪、汚染物質、麻薬、ファッション、信仰などといったものがみな、容易に地域の境界線を越えて流れている。グローバリゼーションとは、単にグローバルな相互結合性の強化を意味するにすぎない」
こ れを企業活動の視点からかみ砕けば、「国境を越えてヒト、モノ、カネなどの経営資源を流通させ、新たな価値を生み出す世界規模の経営活動」というように理 解することができる。ここで重要なことは、どのような考え方・やり方で、どのような新たな価値を、どこで生み出すかである。
アメリカ型の株主主 体の支配的グローバリゼーションの展開を見てきた日本企業にとって、必ずしもアメリカ型グローバリゼーションは、グローバル化の最適解ではないというのが 一般的見解だろう。事実、キャノンやトヨタ、ホンダ、YKKなどは独自のグローバル化の考えを持って世界各地で事業活動を先進的に展開している。
「国 境を越えて経営資源を流通させ、各地域で新たな価値を生み出す」ことを目指すとき、しばしば耳にするのが日本企業の強みを生かしたグローバル化だ。日本企 業の強みとはすなわち、ボトムアップの全員参加経営、現場主義、現場力、安定雇用、顧客・従業員主体などであり、アメリカ型グローバリゼーションを進める ことは、却って日本企業の強みを損なうとの意見も多い。

2.異質から生み出す新たな価値
~グローカリゼーション

私はグローバリゼーションの本質は、異質の組み合わせによる新価値創出のプロセスであると考えている。同質化、均質化ではなく、多様性の尊重がグローバリ ゼーションの前提となる。それはグローバルとローカルを両立させる「グローカリゼーション」であると言い換えてもよい。
同一の価値、同一のシス テムで均質化していくのが支配的グローバリゼーション、すなわち「世界企業」だとすれば、グローカリゼーションとは「世界に在る企業」だと捉えられる。株 主や本社に基軸があるのではなく、地域のお客様や従業員、現場に基軸をおく。本社の役割は自立分散した地域をつなぎ、地域が独自に機能し、最善のサービス を提供できるようにサポートすることである。
私はこの概念について、Holonから発想を得た。Holonとは生物学における概念だが、 「on」は「個」の意味であり、個が独自に機能しながら全体(Hol)と調和していることを指す。生命の身体は、心臓や胃、肺、肝臓など、それぞれの器官 が独自に機能している。これらの器官が神経や血管でつながり、全体として生命を維持する。企業もこれと同じで、地域の各事業、現地法人が独自に機能しつ つ、企業理念やフィロソフィーなどによって全体として調和していく。これが企業経営の究極の「ありたき姿」ではないかと考える。また、
日本企業の強みを活かす姿ではないかと思う。
ホンダの自律分散型ネットワーク組織運営やキャノンの共生コンセプトの組織運営、最近よく聞くハブ組織などは、同様の考え方を基盤としているといえる。日 本企業がこれから目指すグローバル化は、グローバルとローカルを両立させる「グローカリゼーション」であるといっても過言ではない。

3.グローカル化における
人事の4つの重点課題

では「世界に在る企業」を目指すグローカリゼーションの段階を迎えた日本企業において、人事の課題、役割とは何だろうか。もう少し言えば、これからのグ ローカル化に人事は対応できているのだろうか。多くの方の話を伺った結果、グローカル化の方向性や人事の課題はわかっているが、どのように展開すればよい のかがわかっていないということであった。
一つは「グローバル人材」について。必要とされるグローバル人材が不明確、グローバル人材を育成・活 用する仕組みがない、グローバル人材の異動管理の仕組み不足、駐在員の資質不足、資質を持った駐在員候補者が不足している、駐在員のキャリアステップが不 明確など、様々な課題があがってくる。
次に「経営理念・企業風土」については、経営理念を共有化していない、駐在員が経営理念を語れない、経営理念と人事制度の一貫性がない、企業風土の醸成が現地任せであるなどの課題があげられる。
「評価・報酬・処遇等の人事制度」については、人事制度の不透明性、現地法人社員との公平性、国際間異動の処遇基準の不統一、現地の人材情報の不足、現地 人件費負担の統一基準がない、国際間異動の増加への対応遅れ、国際人事の権限・機能の不明確などが課題としてあげられている。
「現地法人人材」については、現地法人マネジメントの自立化の遅れ、人材の流出防止への対応不足、人材育成の方針・仕組みが不明確、優秀でない人材の定着、駐在員との意思疎通が不十分、現地スタッフのキャリアマップがないなどがあがる。
「現地法人運営・経営組織」については、日本人主体の現地法人運営による齟齬、現地法人経営幹部への登用の遅れ、トップの交代で方針が変わる、現地化・自 立化の方針が不明、事業の多極化への対応が遅れている、早い意思決定と素早い実行体制が確保されていない、全体最適の強化、世界と地域の経営監査機能の強 化、経営の透明性向上などがある。
このように多種多様で、時間がかかりそうな課題がたくさん抽出されているが、問題は何から手をつけるかであ る。これらの課題をまとめると優先課題としては、①経営理念の共有/浸透、②現地法人の成長に適応できる国際要員の確保と育成、③現地法人の現場力と経営 力を高める自立化促進、④経営組織と人事制度のプラットフォーム化、の計4点をあげることができる。また、時間的な観点から、即効施策と中長期施策に分 け、同時展開が必要である。

4.課題から戦略の構築へ
戦略=志+課題

これらの優先課題を「今後5年間のグローバルHR戦略」としてまとめてみた。すると次の5つに大別することができる。
①経営理念の世界共有化
②現地法人ニーズに応えられる国際要員の確保と育成
③現地法人の経営力と現場力を高める人材の自立化
④グローバルとローカルの最適人事制度の構築
⑤グローカル化への組織進化

ここで大切なことは戦略を難しく考えないことである。戦略をMBAで教えるような定義で考えると、そんなの戦略じゃないとか言って、入り口の議論ばかりや ることになる。戦略とは「志+課題」だと私は考えている。「こうしたい、こうありたい」という志を明確にし、志から現実を見たときに抽出される課題が出れ ばそれが戦略である。
上記の5つの志に対してどのように課題を見つけ、具体的施策につなげていくか。最初の一歩は、以下のような質問シートに答え ながら課題を探す作業からはじめていく。「経営理念を世界で共有化しよう」という志を持ち、「共有化における課題は何か?」という観点から考えれば、それ がすなわち戦略になる。
参考までにそれぞれの質問シートを紹介する。例えば経営理念の共有と企業風土の醸成については、「経営理念は明確です か?」「経営理念は周知されていますか?」「経営理念の日本での共有はできていますか?」「経営トップは理念を語っていますか?」「駐在員は経営理念を語 れますか?」「現地法人従業員は経営理念を知っていますか?」「現地法人マネジメントは経営理念を語れますか?」「経営理念の実践で企業風土は醸成されて いますか?」計8種の質問。それぞれA、B、Cで状況について答えてみよう。
「現地法人のニーズに応えられる駐在員の確保と育成」については「グローバル人材のありたい姿は描かれていますか?」「駐在員の役割期待は明確ですか?」「駐在員数の変遷は把握していますか?」などの質問があげられる
これらの質問を通じて明らかになった課題に対して、それぞれ具体的な施策を講じていく。例えば国際要員の確保・育成については、駐在員のありたい姿の見直 し、駐在員の人選プロセスの見直しや駐在員候補者推薦制度、赴任前研修の見直しと強化などが一般的な施策といえよう。また現地法人マネジメントの自立化に 対しては、「マネジャーのありたい姿を描く」「経営理念を自分の言葉で語る」「日々のマネジメントの7つの実践」「共感のリーダーシップの発揮」などの現 法マネジャー自立化ワークショップなど、さまざまなプログラムが考えられるだろう。施策にはすぐにできるもの、中長期で取り組むべきものがあり、それらを 分けて検討することがポイントだ。
もう一つ事例を紹介しよう。上記の5番目の「グローカル化への組織進化」はどのように検討し展開するのかであ る。グローバル化を目指す企業の多くは、一旦はマトリックス組織を経験していく。その段階を踏まえ、グローカリゼーションの段階を迎えた企業には、どのよ うな組織進化が求められているのか。
まず志を描く。例えば「顧客と市場の変化に世界と地域で即応できるグローカリゼーション経営への組織進化」と いった具合である。次に4つの視点から現実を見る。例えば、①過去の組織変遷から、②現行の組織から、③将来の事業戦略から、④環境の変化から、といった 具合である。そうすると組織進化の課題やキーワードが浮かび上げってくる。例えば、キーワードとして「地域・現場主体」「意思決定と実行のスピード」「多 極化と自立化の世界性」「先進性の創造力」「分散と求心力」「チャレンジの風土」「経営の透明性」といったもの。更に考えていくと課題が具体的ななってく る。例えば「世界と地域の更なるスピード経営」「地域の自立化強化」「本社横串機能の再編」「世界と地域の経営チェック機能の強化」など。このようなプロ セスでステップを追って考えていくと、提案につながる具体的な施策にたどり着くのである。
これらの具体的な施策やプログラムの組み立て自体は志と課題さえ明確になっていれば、それほど難しいものではない。まずは課題を明らかにすること。ここに焦点を当てて考えてほしい

5.存在を期待される
世界に在る企業へ

現地法人はそれぞれの国の企業として、まず独自の存在感を発揮すべきである。タイの企業はタイで、アメリカの企業はアメリカで、ベトナムの企業はベトナム で、イギリスの企業はイギリスで。それぞれの国で存在を期待される企業にならなければならない。当然ながら存在を期待されるためには、提供する商品やサー ビスが現地で喜ばれることが大前提であるが、同時にそこで働く従業員一人ひとりが働く喜びを感じることができることも重要である。ここに本社人事(グロー バル人事部門)のリーダーシップがある。
本社人事は地域又は現地法人の人事と連携を取って、従業員が働く喜びを感じることが出来る環境づくりに知恵を絞るべきである。これが最大の役割であり、この役割を果すことによって、世界機能として世界と地域・現地法人からその存在が期待される組織になる。
こ の働く喜びは、いろいろな見方があるかと思うが、私は次の6つの視点から考えたらよいと思う。①雇用の安定、②報酬の納得性、③職場のオープンさ、④マネ ジメントとの親近感、⑤成長の機会、⑥仕事と会社の誇り、である。こうした環境づくりへの知恵を出すためには、グローバル人事部門はもっと顧客起点、現場 視点、共創への連携、そしてスピードを持って仕事をすべきではないかと思う。
アベグレンは「日本の会社の基本的特長は、従業員を大切にしていることです。株主には配当を払いますが、会社は従業員のためにあるという意識は日本社会全体の価値観です。
従 業員の価値はもっともっとあるから、従業員を大切にするシステムを続けた方いいのです。会社組織、人事制度を、その基本的な価値観から離れたシステムにす ると、日本の会社は失敗すると思います、本当の人間の価値観から考えると、日本の方がアメリカよりいいシステムではないかという感じがします」
人事部門の皆さん、存在を期待される世界に在る企業を目指して、自信を持って半歩先を歩んでください。

グローバルマネジメント研究所 取締役パートナー
光富 敏夫


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株式会社グローバルマネジメント研究所

住所:東京都千代田区三番町3-6

ローダム三番町102

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